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yagopedia/羽化


  • 羽化前の形態変化


  • 羽化が近づくとヤゴには形態変化が認められる。これまでにも散発的な研究はあったが、奥出は14科49種158個体のヤゴについて、終齢(一部亜終齢)を毎日撮影して変化を観察し、前例のない大規模な研究を行った(奥出ら,2023)(Okude et al.,2021)

1.1翅芽の変化によるステージ分類


  • 研究では、翅芽の変化に基づいて、羽化前の変化をステージ1~3に分類できると提唱している。ステージ分類を以下の表に示す。*図は Okude et al. (2021) Scientific Reports より引用・改変(CC BY 4.0)。

ステージ1
ステージ2
ステージ3
定義
脱皮後~ステージ2前まで 翅芽が膨らみ、前翅後端が後翅の下から現れる 翅芽に線状や斑状の黒い着色が現れる
*体色が黒いヒメサナエムカシトンボについては判定不可
図説

ステージ1

ステージ2

ステージ3

期間
(日)
4~66 3~22 1~8
期間の
種や
個体間
での
変動
大きい。個体間変動は餌量などによる 少ない 少ない
ステージ
分類の
利点
  • ほとんどの種に関して、このステージ分類が適用できる
  • ステージ2以後は、変化が着実かつ非可逆的に進む
  • ステージ2以後は、エサはとれなくても羽化には成功する
  • ステージ3になったら、羽化目前状態と判断できる

ムツアカネの翅芽の変化。羽化2日前になると、翅芽に顆粒状や斑状の着色が現れる。

ムツアカネの翅芽の変化


  • なお奥出の研究は、より対象部分を狙いやすい実体顕微鏡を用いて連日撮影することで行われた。ステージ3の指標である黒い着色を、乱反射光の影響をうけやすい肉眼やデジタルカメラのマクロ撮影を用いて綺麗に観察するのは難しい場合もある。

ステージ3のルリボシヤンマの翅芽。左は Okude et al. (2021) Scientific Reports より引用・改変(CC BY 4.0)。右はデジタルカメラを用いたマクロ撮影。

ルリボシヤンマ終齢ステージ3


  • 膨れた翅芽の中で、翅がシワ状に折りたたまれるのも目立つ変化で、ステージ2に入って何日かたってから認められるようになる。

羽化直前の均翅亜目の翅芽。左上から右回りにホソミオツネントンボニホンカワトンボシコクトゲオトンボコナカハグロトンボモノサシトンボムスジイトトンボ

羽化直前の不均翅亜目の翅芽。左上から右回りにムカシトンボアオヤンマウチワヤンマムカシヤンマ

均翅亜目翅芽

不均翅亜目翅芽


羽化直前の不均翅亜目の翅芽。左上から右回りにオニヤンマカラスヤンマカラカネトンボキイロヤマトンボオオキイロトンボ

不均翅亜目翅芽


1.2複眼の変化


  • 翅芽以外の部位についても、奥出は詳細に検討している。複眼は羽化に向かっての変動が大きく観察しやすい部位だが、その変化の仕方については、種をまたいでステージ分類できるルールは見いだせなかった

  • イトトンボ科では、複眼の長軸角度がだんだん寝てくる変化は、ほぼ共通に見られる。アオモンイトトンボでは、複眼が最初は背側に、最終段階で後方へと、2段階で拡大するが、ルリイトトンボでは、同時に両方向に拡大する。

  • 他の均翅亜目に関しては、アオイトトンボ科、カワトンボ科、モノサシトンボ科、トゲオトンボ科では、特定の方向に拡大するのではなく、徐々に領域を広げるように拡大する。

アオモンイトトンボの複眼の変化(奥出ら,2023)より引用・改変点線:複眼長軸、回転矢印:背側方向への拡大、直線矢印:後方への拡大。

アジアイトトンボの複眼の変化。

アオモンイトトンボ複眼変化

アジアイトトンボ複眼変化


  • 不均翅亜目のトンボの複眼はより複雑に変化したが、全体としては徐々に後方に拡大する傾向がみられた

  • 厚く不透明な表皮にじゃまされて複眼の変化がとらえにくい種もあった。

ショウジョウトンボの複眼の変化。下段は Okude et al. (2021) Scientific Reports より引用・改変(CC BY 4.0)。白矢頭:複眼の拡大。

上段:ヤブヤンマの複眼の変化。下段:メガネサナエの複眼の変化。

ショウジョウトンボの複眼変化

ヤブヤンマ・メガネサナエ複眼変化


上段:カラカネトンボの複眼の変化。下段:オオヤマトンボの複眼の変化。

上段のヒメサナエ、下段のムカシトンボなど、厚い表皮と濃い色素の影響で複眼の変化が確認しづらい種もある。後述の、複眼と表皮間の間隙は認められる。

カラカネトンボ・オオヤマトンボ複眼変化

ヒメサナエ・ムカシトンボの複眼


  • トンボ科とヤンマ科の一部の種では、ステージ2で複眼においてアポリシス(羽化の際に外表のクチクラから内部がはがれること)様変化が観察される。ステージ3では、他科でも多くの種で複眼と表皮の間に間隙ができているのが確認できる。

上段は、ヒメギンヤンマの複眼と外表間の間隙。下段は、ルリボシヤンマの複眼でのアポリシス様変化。黒矢頭:複眼でのアポリシス様変化( Okude et al. 2021 Scientific Reports より引用・改変(CC BY 4.0)。

上段:オツネントンボの複眼と外表間の間隙。下段:コナカハグロトンボの複眼と外表間の間隙。

ヒメギンヤンマの複眼と外表間の間隙

オツネントンボとコナカハグロトンボの複眼と外表間の間隙


上段:オナガサナエの複眼と外表間の間隙。下段:ムカシヤンマの複眼と外表間の間隙。

上段:カラスヤンマの複眼と外表間の間隙。下段:ミヤマアカネの複眼と外表間の間隙。ミヤマアカネは色が異なる成虫の複眼が透けて表皮下に見える

オナガサナエとムカシヤンマの複眼と外表間の間隙

カラスヤンマとミヤマアカネの複眼と外表間の間隙


1.3下顎の退縮など


  • 下顎の退縮もしばしば観察される。

  • 不均翅亜目でより目立ち、均翅亜目では目立たなかった。また時期としては、ステージ2後半からステージ3にかけて見られる。

  • 他に観察される変化としては、ほとんどのイトトンボ科では、ステージ2以後に頭部や前胸部に新たな斑紋や模様が現れる。

ムツアカネの下顎の退縮。

カラフトイトトンボの頭部と前胸部。白矢頭:新たな斑紋や模様。

ムツアカネの下顎の退縮

カラフトイトトンボの新たな斑紋や模様


1.4体長の変化


  • 観察できた全ての種で、終齢になった直後より羽化直前の方が体長が増しており、主に、腹部が伸びることが影響していた。

  • 均翅亜目では、トゲオトンボ科ミナミカワトンボ科で体長の伸びが目立った。

  • 必ずしも、最後まで直線的に伸びるのではなく、下のオオギンヤンマのようにステージ2で体長が最大になる場合もある。

オオギンヤンマステージ1~3の体長比較。

ステージ1(左)と羽化直前(右)の体長比較。左上から右回りにホソミオツネントンボニホンカワトンボシコクトゲオトンボコナカハグロトンボモノサシトンボムスジイトトンボ

オオギンヤンマステージ1~3の体長比較

均翅亜目の体長比較


ステージ1(左)と羽化直前(右)の体長比較。左上から右回りにムカシトンボウチワヤンマムカシヤンマオニヤンマ

ステージ1(左)と羽化直前(右)の体長比較。左上から右回りにカラスヤンマカラカネトンボキイロヤマトンボオオキイロトンボ

均翅亜目の体長比較

均翅亜目の体長比較


  • 羽化直前の行動


  • 羽化直前になると、羽化が近いことを予測させる行動が始まる。

  • まず、餌を食べなくなる。原因のひとつとしては、下顎の退縮により物理的に餌を補足できなくなることと思われるが、餌はいったん捕らえるものの、食べずにはき出す行動も観察される。

  • さらに羽化が近づくと、水中での鰓呼吸から空気中での気門を通した気管呼吸に切り替わる準備が見られる。ちなみに、昆虫には血管系はなく、全身に張り巡らせた気管系から直接組織に酸素を送る。

  • ヤンマ科などでは羽化間近になると、気門がある胸部を水面より上に出して休んでいる姿がしばしば観察される。

  • ムカシトンボの場合は、陸上への移行期間が極端に長く、羽化の20日前から上陸して川岸の岩の下などに潜んで陸上生活することが知られている。

羽化前に胸部を水面上に出すクロスジギンヤンマの終齢幼虫(写真では気門は水中にある)。

2段になった石をはがして見つかったアサヒナカワトンボの羽化間近の終齢幼虫。上段の岩は水の外に出ていたが、その岩底のくぼみに潜んでいた。

羽化前クロスジギンヤンマ終齢幼虫

羽化前アサヒナカワトンボ終齢幼虫


羽化前に上陸したムカシトンボの終齢幼虫の動画。


→再生がもたつく場合は、YouTubeで閲覧を(設定の変更【ギアアイコン】でHD画質でも見られます)


  • ホルモン動態と遺伝子制御


3.1脱皮・変態時のホルモン動態


  • トンボは変態(羽化・蛹化)を行う昆虫の中で、最も祖先的なグループに属する。ちなみに、変態は蛹を経る完全変態と、それがない不完全変態に分かれるが、トンボは不完全変態を行う

  • 昆虫の脱皮と変態(羽化・蛹化)時のホルモンの動きは多くの昆虫で研究されており、昆虫の幼若ホルモン(juvenile hormone:JH)脱皮ホルモン(ecdysteroid:20-hydroxyecdysone:20E)によってコントロールされることがわかっている。

  • 脱皮ホルモン濃度が一過性に上昇すると脱皮ないしは変態(羽化・蛹化)が引き起こされる。脱皮ホルモン濃度上昇時に幼若ホルモン濃度が高い脱皮が起こり、幼若ホルモンがほぼないと変態(羽化・蛹化)が引き起こされる。

  • 不完全変態をする他の昆虫の研究や、いくつかのヤゴの研究から、これまで脱皮と変態(羽化)に関するホルモン制御はトンボも同じと考えられていたが、奥出(Okude et al.,2025)によって実際にアオモンイトトンボコシアキトンボでは脱皮ホルモン(ecdysteroid:20-hydroxyecdysone:E20)が一過性に上昇することが確かめられた

脱皮とホルモン動態。脱皮ホルモン濃度が高くなり幼若ホルモンも高いため脱皮が引き起こされる。

羽化とホルモン動態。脱皮ホルモン濃度は高いが幼若ホルモンがほぼないため羽化が引き起こされる。

脱皮とホルモン動態

羽化とホルモン動態


脱皮と変態(羽化)時のホルモン動態。



3.2遺伝子制御


  • 昆虫の変態(羽化・蛹化)時の遺伝子制御については、主に完全変態をする昆虫で調べられていたが、トンボについては明らかにされていなかった。奥出はトンボの変態時の遺伝子制御についても研究を行っている(奥出ら,2023)(Okude et al.,2022)

  • その結果、これまでにも昆虫の変態時に重要な役割を果たすことが分かっていた3つの遺伝子、Krüppel homolog 1(Kr-h1)E93broadがトンボの変態を制御していることを見いだした。なお、これらの遺伝子は転写因子(DNAの特定の配列に結合して、他の遺伝子の発現を制御するタンパク質)として働く。

  • トンボの変態時の遺伝子制御は、下図の様になる((奥出ら,2023) (Okude et al,. 2022 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.) より引用・改変(CC BY 4.0)。

トンボ変態時の遺伝子制御。矢印は刺激ブロック線は抑制を意味する。

脱皮とホルモン動態


脱皮の際の遺伝子制御。幼若ホルモンが高いため、Kr-h1が発現し、E93が抑制され幼虫形質に傾き、脱皮が引き起こされる。

羽化の際の遺伝子制御。幼若ホルモンがほぼないため、E93への抑制が起こらず成虫形質に傾き、羽化が引き起こされる。

脱皮とホルモン動態

羽化とホルモン動態


  • 直立型と倒垂型羽化


4.1直立型と倒垂型羽化


  • 羽化の途中で肢を胸部側面につけて止まっている状態を休止期というが、この姿勢が直立している羽化タイプを直立型羽化、大きく後ろにそりかえるのを倒垂型羽化とする分類法がある。ほとんどの場合、科の単位でどちらかにまとまるため、この分類は広く受け入れられている。

  • 一般的に直立型は、翅が根元から広がり羽化時間は倒垂型より短めで、また日中に羽化する種が多い。逆に、倒垂型は翅が均一に伸び直立型より羽化時間が長めで、夜間から早朝に羽化する種が多い

直立型羽化のヒメクロサナエ

倒垂型羽化のマルタンヤンマ

直立型羽化のヒメクロサナエ

倒垂型羽化のマルタンヤンマ


  • アオイトトンボ科トゲオトンボ科ミナミカワトンボ科、モノサシトンボ科イトトンボ科ムカシヤンマサナエトンボ科が直立型羽化に分類される。

  • また、ムカシトンボ科ヤンマ科オニヤンマ科ミナミヤンマ科エゾトンボ科ヤマトンボ科トンボ科が倒垂型羽化をする。ウミアカトンボはトンボ科の中では例外的に直立型羽化をすることが知られている。

  • カワトンボ科は、羽化の際に大きく後ろにそりかえるが、腰が”くの字”に曲がって成虫の頭部と羽化殻の頭部は同じ方向を向いている。休止期の体全体の形は直立型と同じで、そちらに分類するのが妥当と思われる。そう考えると、均翅亜目は全て直立型羽化に属することになる。

4.2羽化の進み方


  • 羽化は、以下ステージ1~4の順で進行する。

    • ステージ1では、定位、 ステージ2では、翅胸部裂開→頭部/翅胸部脱出→翅芽脱出→休止、 ステージ3では、腹部脱出→4翅の伸張→腹部の伸張→肛門水の排出、 ステージ4では、開翅→飛び立ち

    • ステージ1:水中から上陸し体全体が空気中に出るが、まだ幼虫の殻は破れていない。枝や岩にぶら下がって定位したり、そのまま水辺のすぐ近く(時には体の一部が水の中)でほぼ水平に定位したりと、種によってだいたい決まっている。ぶら下がる種は、定位した後はしばらく体を揺すって安定性を確認しているような行動が見られた後に動かなくなる。


マルタンヤンマの羽化ステージ1。体を揺すって固定位置を確かめている。



    • ステージ2:次のステージでは、幼虫の殻が破れて体が現れるが、まだ体全体は外に出ずに腹部の後半部で脱皮殻に付着している。しばらくの間(何分~何十分のオーダー)肢を胸部側面につけて止まっている時間があり、これを休止期という。


マルタンヤンマの羽化ステージ2。休止期に入る。



オジロサナエの羽化ステージ2。休止期に入る。



    • ステージ3:幼虫の殻から完全に抜け出す。その後、翅→腹部の順番で完全なサイズまで伸びる。


マルタンヤンマの羽化ステージ3。殻から完全に抜け出し、翅と腹部が完全なサイズまで伸びる。



オジロサナエの羽化ステージ3。殻から完全に抜け出し、翅と腹部が完全なサイズまで伸びる。



    • ステージ4:脱皮が完了し飛び立つ。不均翅亜目の場合は突然翅を開き、その後飛び立つ。


オジロサナエの羽化ステージ4。脱皮が完了し飛び立つ。



  • 化性


  • 1年に繰り返す世代の数を化性という。1年1化であれば毎年1回成虫となりその間は卵か幼虫で過ごし、2~3年1化であれば2~3年に1回成虫となり、その間は卵か幼虫で過ごし、1年多化であれば1年の間に複数回成虫となる。

化性

化性



  • 1年1化や1年多化種は化性を確定しやすいが、多年1化種では自然下での継続観察が困難なため推定にとどまる場合もある

  • 各科毎の化性は、本邦では以下のようになる。化性は絶対的でない場合もあり、主に気温(≒緯度)の関係で変化しうる。

    • トゲオトンボ科:全て多年1化。
    • イトトンボ科:1年多化種が多く、他は1年1化。北方性のイトトンボを含めて、多年1化種はいない。
    • ムカシトンボ科:幼虫期間が最も長い種で、5~8年1化と推定されている。
    • ヤンマ科:多年1化種が多い(主に、北方種と渓流種)。他は1年1化だが、トビイロヤンマのみ1年多化。
    • サナエトンボ科:全て多年1化。
    • ムカシヤンマ科:2~3年1化。
    • オニヤンマ科:3~4年1化。
    • ミナミヤンマ科:2~3年1化。
    • ヤマトンボ科:全て多年1化。
    • トンボ科:アカネ属は卵で越冬し、1年1化種と考えられている。ただ、ネキトンボは幼虫で越冬し、1年2化が考えられる(タイリクアカネも幼虫で越冬する)。他は1年多化種が多いが、北方種のカオジロトンボなど、多年1化種がわずかにいる。

  • 多年1化種は、飼育下では1年1化で羽化する場合もあり、気温や日照時間の違い、餌が豊富なことなどの環境面が理由と思われる。遺伝的に完全にコントロールされてはいないと思われる。

  • アオイトトンボ属は絶対的な1年1化とされるが、エゾアオイトトンボは飼育下では産卵後1カ月程度で孵化し、その後1カ月程度で産卵された年内に羽化するのが観察された(自験例)。

  • 羽化時期の同調


  • トンボは種によって出現時期が決まっており、羽化時期をそこに同調させる仕組みが備わっている。

  • 多年1化種で考えるとわかりやすい。例えば3~4年1化種では孵化後のヤゴの成長は揃わず、3年で羽化する個体もいれば4年で羽化する個体もいる。成虫の出現期間は短いため、そこに羽化を合わせるための仕組みがあるはずである。実際にキイロサナエの野外での観察では、成虫出現前に終齢が同期して揃うことが報告されている(青木, 1993)

同じ卵から孵化した1~3年1化のサラサヤンマ幼虫。その後の成長がかなりばらついている。

サラサヤンマ幼虫



  • 羽化時期の同調は、卵、ヤゴ、トンボのいずれか、あるいは複数の段階で、発生や成長、生殖活動を遅らせることで調節されている(促進も一部ある)。

  • またメカニズム的には、遺伝的に強制的に働く仕組みと、気温や日照時間などの環境条件が引き金になる仕組みがあり、両者が組み合わされていると考えられる。

6.1成虫で越冬する種の羽化同期


越冬して春に産卵するオツネントンボ

越冬して春に産卵するホソミオツネントンボ

オツネントンボの産卵

ホソミオツネントンボの産卵


  • ホソミイトトンボは1年2化で、初夏に羽化した成虫は生殖活動を行って秋には第2世代が羽化する。そして、この世代が冬を越す。

越冬して春に産卵するホソミイトトンボ

夏に産卵する第2世代のホソミイトトンボ。ちなみに第2世代はかなり小柄になり色も異なる。

ホソミイトトンボ越冬型の産卵

ホソミイトトンボ夏型の産卵


  • 大部分のトンボは羽化後1~2週間で生殖活動を始めるが、この3種の越冬世代は長期間生殖活動を停止させ、春になって一斉に生殖活動を再開することで産卵時期を揃え、羽化時期を調節している。

  • 生殖活動が抑制されるメカニズムや、再開される刺激については詳しくはわかっていない。

6.2卵で越冬する種の羽化同期


  • 卵で越冬する種として代表的なのは、トンボ科アカネ属(ネキトンボタイリクアカネを除く)とアオイトトンボ属がいる。また、ヤンマ科のルリボシヤンマ属も卵で越冬する。

  • アカネ属とアオイトトンボ属の卵は胚反転が完了して孵化準備が整った状態で冬を越す。 なお胚反転とは、胚発生の終盤にほとんどの種で起こり、卵後極に位置する頭部が反転して卵前極に移動するイベントをさす。

  • アオイトトンボ属では、いくつかの実験結果から羽化同期の仕組みが推定されている。

アオイトトンボ属の羽化同期の仕組み

アオイトトンボ同期調節



  • ①生殖休眠:春に羽化したアオイトトンボは、隣接した森林などで過ごして生殖休眠に入り、秋になってから生殖活動を始める。ただ生殖休眠の期間は絶対的なものではなく、秋が早く訪れる北方の寒冷地帯では前生殖期は20日程度と短くなり生殖休眠はほぼないか、あるいはない。また、生殖活動を再開する引き金は気温で、一定の閾値(ある程度の低温)があるようだ。

  • ②胚の発育休止:産卵された卵は胚反転までは発生が進むが、ここで発生は休止してその状態で冬を越す。発生が休止する条件としては、冬期の低温や日照時間の短縮が引き金になることが実験で推定されている。若齢幼虫は寒さへの耐性がないため、冬期に孵化が起こらない仕組みがあることは重要になる。

  • ③春の孵化同期:春になり気温が上がることで卵の発生休止状態は解除されて孵化が始まる。実験によると、低温にさらされる期間が短いと孵化は始まってもだらだらと続き、低温期間が長いと孵化が短期間で完了する。長い冬の寒さが、成虫の出現時期を同調する要因になっていると思われる。

  • アカネ属、特にアキアカネではアオイトトンボ属と同様に成虫が生殖休眠することが知られている。卵に関しては冬期の胚発生休止は明らかだが、羽化同期の仕組みを明らかにした実験は少ない。

  • ルリボシヤンマ属も卵で越冬するが、こちらは発生の初期段階で越冬して胚反転は越冬後になる。アカネ属やアオイトトンボ属などとは違いがあり、また羽化同調メカニズムの詳細は知られていない。

胚反転後越冬するナツアカネ卵。

越冬後胚反転するオオルリボシヤンマ卵。

ナツアカネ卵

オオルリボシヤンマ卵


6.3幼虫で越冬する種の羽化同期


  • 幼虫で越冬する種は大きく2つにわけることが出来る。1つは春の一時期だけ成虫が出現するグループ(春期種)で、もう一つは初夏~夏の比較的長い時期に出現するグループ(夏期種)である。

  • 春期種は羽化の同期性が高く、夏期種は同期性が高くない。また、春期種は終齢で越冬し、夏期種は終齢より若い齢で越冬する。

  • 春期種については春の短い時期に集中して羽化するので、何らかの羽化同期の仕組みがあると推定される。 その中で、3~4年1化のキイロサナエについての研究がある(青木, 1993, 1994)

キイロサナエの羽化同期の仕組み

キイロサナエ同期調節

  • キイロサナエは2回目の冬をF-2(終齢の2つ手前)あるいはF-3で越す。春になり再び脱皮を開始するが、亜終齢(F-1)の時点で①夏の長日(あるいは長日への変化)が引き金となりいったん発育が遅延する。その後②秋の日照時間(あるいは日照時間の変化)が引き金となって発育遅延が解除され、タイミングを揃えて終齢となる。そのまま、終齢で越冬し春にタイミングを揃えて羽化する。

  • 一方、下段に示すように2回目の冬をF-3で越えたヤゴのうち、小さめの個体は秋に終齢にならずに亜終齢で越冬する場合があるようだ。さらにこの個体は春に過剰脱皮して亜終齢を繰り返す。その後は他の個体と同じで秋に終齢となり、もう一度冬を越して羽化する。

6.4羽化時期が制御されていない種


  • 羽化時期が制御されている種が多いと思われるが、ウスバキトンボのようにコントロールされずに短期間で幼虫が成長し、多世代を積み重ねる種もいる。

  • その他


    • 分割羽化:羽化のために水から出た幼虫が低温のせいで再び水中に戻り、後日適温になった日に羽化することがある。これを分割羽化と呼んでいる。

    • ♂または♀の先行羽化:多くの場合、♂または♀が先行して羽化することはないが、どちらかが先行する場合は♂である場合が多い。

    • 羽化数の性差:羽化殻を数えた調査では、均翅亜目では通常♂が多く、不均翅亜目では♀が多い。

    • 参考文献


    • ネット上で閲覧できる文献は著者名にリンクがはってある。


    • Okude, G., Fukatsu, T. & Futahashi, R. Comprehensive comparative morphology and developmental staging of final instar larvae toward metamorphosis in the insect order Odonata. Sci. Rep. 11, 5164 (2021).
    • Okude, G., Moriyama, M., Kawahara-Miki, R., Yajima, S., Fukatsu, T., & Futahashi, R. Molecular mechanisms underlying metamorphosis in the most-ancestral winged insect. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 119, e2114774119 (2022).
    • Okude, G., Ogihara-Mari, H., Moriyama, M., Yamagishi, T., Yamamoto, H., Fukatsu, T., & Futahashi, R. Identification of ecdysteroids and ecdysteroidogenic genes in dragonflies and damselflies. Sci. Rep. 15, 21971 (2025).
    • 青木典司,1993. キイロサナエ幼虫の成長(第 1 報)— 幼虫の齢期の収束性について —. Tombo, 36: 35-38.
    • 青木典司,1994. キイロサナエ幼虫の成長(第 2 報)— 卵期間,幼虫期間,全齢数,羽化 —. Tombo, 37: 31-36.
    • 青木典司: 神戸のトンボ トンボの生態学 5.季節的制御
    • 奥出 絃太・二橋 亮, 2023. トンボの終齢幼虫の形態変化と変態制御遺伝子. Tombo, 11: 1-12.
    • フィリップ S. コーベット. 2007. トンボ博物学ー行動と生態の多様性ー 初版. 海游舎.

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